top of page

ピロリ菌除菌後、胃カメラは毎年必要? 必要な人・そうでない人の違い

  • 執筆者の写真: 井星陽一郎
    井星陽一郎
  • 3月11日
  • 読了時間: 7分

更新日:3月26日

ピロリ菌を除菌すると、将来の胃がんリスクは大きく下がることがわかっています。


実際に、これまでの多くの研究では、ピロリ菌除菌後に胃がんの発生リスクはおおむね半分程度まで下がると考えてよい状況です。近年の大規模メタ解析(複数の研究をまとめた信頼性の高いデータ)でも、ピロリ菌陽性者に対する除菌治療は、研究デザインが異なっても一貫して胃がん予防効果を示しています。


無症状の H. pylori 陽性成人(胃がんなし)を対象にした解析でも、除菌によって胃がんリスクは RR 0.64(約36%減)〜0.56(約44%減) と有意に低下していました。Ford AC, et al. Gastroenterology. 2025;169(2):261-276.


ただし、ここで大切なのは、「リスクが下がること」と「リスクがゼロになること」は違うという点です。


除菌後のリスクは一人ひとり同じではなく、毎年胃カメラで慎重にみた方がよい人もいれば、そこまで頻回ではなくてよい人もいます。


その違いを大きく左右するのが、除菌前後の胃の粘膜の状態です。とくに、萎縮性胃炎ピロリ菌などの影響で長期間の炎症が起こり、胃の粘膜が薄く痩せてしまった状態)腸上皮化生 (炎症が長引いた結果、胃の粘膜が腸の粘膜のように変質してしまった状態)という変化がどのくらい進んでいるかによって、除菌後に残る胃がんリスクや、その後の胃カメラの間隔の考え方が変わってきます。


つまり、除菌はとても重要ですが、除菌したらもう何も気にしなくてよいという意味ではありません。すでに胃の粘膜に変化が進んでいる場合には、除菌後も一定のリスクが残ることがあるため、胃の状態に応じて、その後の見守り方を調整していくことが大切です。



除菌はタイミングが早いほど、将来の胃がんのリスクが低くなります


ピロリ菌による胃の変化は、一般に、慢性的な炎症から始まり、やがて萎縮性胃炎腸上皮化生へと進み、その一部が胃がんへつながると考えられています。


このため、胃の変化がまだ軽いうちに除菌できるほど、将来の胃がん予防効果も大きくなりやすいと考えられています。


無症状のピロリ菌感染者を対象にしたあるランダム化比較試験では、平均26.5年の追跡で、胃がんの発生は

除菌群 2.6 %

非除菌群 4.3 %で、

除菌群のほうが有意に少なく、

さらにその除菌群の中でも、予防効果が異なることがしめされ、


萎縮性胃炎や腸上皮化生などの進んだ変化がない段階では予防効果がより大きいことも示されました。予防効果は数字の上では、上記の胃粘膜変化の少ない層では 約63 % と比較的高い予防効果が示されました。一方ですでに変化が進んで除菌をした層では約25%(しかも統計学的に有意とは言えない=値の確実性は高くない)という結果でした。

(Yan L, Chen Y, Chen F, et al. Gastroenterology. 2022;163:154-162. )


なぜピロリ菌除菌後もリスクが「ゼロ」にならないのか


長いあいだピロリ菌にさらされていると、胃の粘膜そのものが変化し、「発がんの土壌」のような状態が残ることがあります。

  • 強い萎縮や腸上皮化生といった、構造そのものの変化

  • DNAメチル化などの、細胞レベルの「遺伝子スイッチ」の異常

  • 胃の中の細菌のバランスのくずれ(マイクロバイオームの変化)


最近こうした「発がんにつながる記憶」を oncogenic memory(オンコジェニック・メモリー) と呼び、ピロリ菌を追い出したあとも、しばらくは胃がんのもとが残りうることが指摘されています。

このため、「除菌すれば一安心」ではあるものの、「どのくらいの変化が残っているか」に応じて、その後の胃カメラの頻度を調整していくことが大切です。


あなたの胃はどのグループ?3つの色でみる「残りのリスク」


ピロリ菌除菌後の胃がんのリスク低下は、除菌前の胃炎の状態に依存する

除菌前の胃の状態(萎縮の程度や腸上皮化生の有無)をもとに、リスクを3つに分けて考えます。ただし、実際にはきれいに3つへ分けられないこともあります。境界にあたる所見がある場合や、年齢・家族歴・喫煙歴などの背景をあわせて考えたほうがよい場合には、安全を重視して、やや頻回の胃カメラをご提案することがあります。また除菌後の数年間は、除菌する頃に見つけにくかった病気が見つかることもあるため、できれば毎年の内視鏡が望ましい、という考えもあります。 日本ヘリコバクター学会の2024公開資料でも、サーベイランスが不要となる症例群は特定できないため長期サーベイランスを推奨し、リスク因子を評価してサーベイランス間隔を個別に設定することが重要としています。 


🟢 緑グループ(リスク低)

比較的きれいな胃粘膜・リスクが最も低いグループ。

  • 対象胃カメラで萎縮がほとんどなく、ピロリ菌の除菌に成功した方(胃がんの既往なし)。

  • 胃がんリスクピロリ菌除菌後のリスクはかなり低く、全体として低リスク群と考えられます。

  • 胃カメラの目安:症状がなければ、毎年の胃カメラが必須とは限らず、数年ごと(3〜5年に1回程度)を考えます。


🟡 黄色グループ(注意が必要)

慢性胃炎、萎縮性胃炎が中等度にみられる・定期的なチェックを考えるグループ

  • 対象胃カメラで「軽度〜中等度以上の萎縮」がある方、または高齢で除菌された方。

  • 胃がんリスク:除菌によりリスクはおよそ半分になりますが、緑グループよりは高めです。

  • 胃カメラの目安:一律に年1回と決めるというより、 胃の状態や背景に応じて2年に1回程度を目安にします。


🔴 赤グループ(しっかり検査が必要)

高度な萎縮・腸上皮化生などがあり、より慎重な経過観察を考えるグループ

  • 対象胃カメラで「強い萎縮」や「腸上皮化生」が広く見られる方、家族に胃がんの方がいる・喫煙が長いなどリスクが重なっている方。胃がんの既往がある

  • 胃がんリスク:除菌後も相対的に高めのリスクが残ることがあります。

  • 胃カメラの目安定期的な胃カメラが重要です。所見や背景によっては、毎年1回程度の経過観察を考えることがあります。


この3分類は、萎縮や腸上皮化生などのリスク因子で除菌後フォローを個別化するという考え方を、患者さん向けに簡潔に示したものです。日本ヘリコバクター学会2024公開資料は、萎縮スコア高値や腸上皮化生のある症例では定期的サーベイランスが妥当としつつ、現時点で不要群は特定できないとしています。 


日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会. H. pylori感染の診断と治療のガイドライン 2024改訂版. とくに CQ3-6「除菌後に長期的な胃がんサーベイランスが必要な患者は誰か?」を参照。 


まとめ

  • ピロリ菌を除菌すると、将来の胃がんリスクは下がることが期待されます

  • ただし、除菌後のリスクは一人ひとり同じではありません

  • その差に関わるのが、胃の傷み具合(萎縮・腸上皮化生の程度)、除菌した年齢、家族歴、生活習慣などです

  • そのため、除菌後の胃カメラは「全員が毎年必要」でも「全員が不要」でもなく、胃の状態に応じて考えることが大切です

当院では、胃カメラの所見や年齢などを総合してその方に合った検査間隔をご提案しています(🟢🟡🔴のどのグループか)実際には、境界がはっきりしないケースや、安全を重視して少し短めの間隔でみたほうがよいケースもあります。「除菌して終わり」ではなく、「除菌をきっかけに、自分に合ったペースで胃を見守る」ことが、これからの胃がん予防の考え方です。

当院でのご相談について

井星医院では、ピロリ菌の検査や除菌治療だけでなく、除菌後の胃カメラフォローについてもご相談いただけます。胃カメラでみた萎縮の程度や腸上皮化生の有無、年齢、ご家族歴などを踏まえて、その方に合った検査間隔をご提案します。


健診でピロリ菌を指摘された方、

除菌後にどのくらいの間隔で胃カメラを受ければよいか迷っている方、

萎縮性胃炎と言われたままになっている方は、


どうぞご相談ください。





コメント


bottom of page