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​便秘(慢性便秘症)

便秘症とは、本来体外に排出されるべき便を、十分量かつ快適に排出できない状態を指します。排便回数が少ない(例:週3回未満)だけでなく、便が硬い・強くいきむ・残便感がある・排便に時間がかかるといった症状も便秘に含まれます。生活の質を損ねやすい疾患ですが、生命予後や心血管リスクとも関連する病的な状態です.

このページの要点

  1. 便秘は「つらい症状」だけでなく、生命予後や心血管リスクとも関連します。慢性化・難治化する前に、生活習慣と医療的介入を組み合わせて、“出す”ことと“守る(心血管)”ことを同時にケアしましょう。

  2. 便秘の原因は多様:腸の動きや感覚に異常がある,機能性(正常通過・遅延通過・排出障害)/薬が原因の薬剤性/腸を詰まらせる原因がある,器質性などがあります。長く続く腹痛や血便など,がある場合は危険な症状です。早めの内視鏡検査(大腸カメラ)が必要です.

  3. 治療は生活(食物繊維・水分・運動・排便習慣の再学習)+薬物。センナなどの刺激性下剤は毎日使用せず,頓用中心とします。

  4. 国内で利用できる薬:酸化マグネシウム,リナクロチド(リンゼス),ルビプロストン(アミティーザ),モビコール, エロビキシバット(グーフィス)など

どんな症状?

  • 出にくい:いきんでも少量しか出ない、時間がかかる。

  • 硬い便:コロコロして痛い、切れそう。

  • 残便感:出た後も“まだ残っている”感じが続く。

  • 肛門のつかえ感:出口で詰まる感じ、途中で止まる。

  • 回数が少ない:1週間に3回未満が続く。

  • おなかの不快感:張る・痛む・食欲が落ちる・ガスが多い。

  • 手で助ける:指で掻き出す/肛門の周囲を押すなどの“用手排便”が必要。

便秘症は生命に関わる病気

「便秘は不快なだけで命には関係ない」――そうとは限りません。米国ミネソタ州の住民3,933人を約15–20年追跡した住民ベース研究では、慢性便秘を訴えた人は死亡リスクが約20%高いことが示されました(調整後ハザード比 1.19[95%CI 1.03–1.37])。

便秘は死亡率を増加させる.webp

Chang JY ほか.地域住民における機能性消化管障害が生存に与える影響.Am J Gastroenterol. 2010;105(4):822–832.doi:10.1038/ajg.2010.40.

便秘が生命に関わる理由

便秘が高度であるほど,高齢・喫煙・糖尿病・高コレステロール・高血圧・肥満・身体活動量の低さ・食物繊維摂取の少なさ,などが多くみられ,心血管イベント(心筋梗塞・狭心症・脳卒中など)が多く発生したという,米国の大規模前向き研究(73,047人、中央値6.9年追跡)があります.

便秘と心血管病リスク.webp

Salmoirago-Blotcher E ほか.閉経後女性における便秘と心血管疾患リスク.Am J Med. 2011;124(8):714-723.doi:10.1016/j.amjmed.2011.03.026.

この報告では,以下が示されました.

  1. 血圧・脂質・血糖・喫煙・身体活動量・食事に問題がある人で,便秘が多い.

  2. ​高度の便秘では,それ自体がさらに,心筋梗塞や脳卒中の危険を増加させる (1.23倍).

​排便の際の過度のいきみにより血圧が急上昇することが,悪影響を与えていると考えられる.

当院での進め方

  1. 問診による,排便状況と,内服薬の確認(抗コリン薬・麻薬・高血圧治療薬[Ca拮抗薬]など)

  2. ​腹部レントゲンで,大腸の中の残便の量と,便塊の分布を確認.直腸下端まで便が降りてきているか.

  3. ​治療薬は,排便状況と大腸の便の分布,基礎疾患などを考慮し便秘のパターンに応じて投薬します.

  4. 大腸内視鏡は,危険症状(赤旗症状)や年齢,便潜血や出血の有無応じて,適切な時期に判断します.

受診の目安

以下に当てはまる場合はご相談ください.

  • とにかく困っている.

  • 排便回数減少,便が硬い・便が出せない,残便感,いきみが強い

  • ​長い間便秘薬を服用していたが,効かなくなってきた.量が増えてきた.

  • 注意すべき(赤旗)症状:血便・体重減少・貧血・持続する腹痛,高齢の新規発症,家族歴(大腸がん)など → [o] 大腸内視鏡の適応を検討

  • ​大腸がんの家族歴がある

原因と起こり易い状況

  1. 食物繊維・水分不足で,適切な便塊が形成されない.

  2. 排便の我慢/不規則な生活(朝食抜き・就寝遅延)

  3. 運動不足・長時間の座位/臥床

  4. 薬が原因(麻薬、抗コリン薬、降圧薬、鉄剤、抗うつ薬、など)

  5. 加齢・女性ホルモンの影響/妊娠・産後

  6. 排出障害型(骨盤底協調不全・直腸肛門機能の障害)

  7. 内分泌・代謝(甲状腺機能低下症、糖尿病性神経障害、高Ca血症、脱水 など)

  8. 神経・筋疾患(パーキンソン病、脳卒中後、脊髄疾患 など)

  9. 器質的疾患(大腸がん・狭窄など)

便秘に関する検査

  1. 腹部単純X線(レントゲン)で,便の分布を確認します.

  2. 必要な場合は,[o] 大腸内視鏡で便の通過を妨げる異常がないかどうか,確認が可能です.

  3. ​すぐに大腸内視鏡検査を希望されない場合は,腹部CTなどで大腸に関するある程度の情報を得ることもできます(連携医療機関にて).

治療は,薬と生活の両輪がカギ

1) 生活の整え方

  • 食物繊維・十分な水分・中等度の運動。

  • 排便姿勢:前傾・腹圧の入れ方を意識。足台は有効な人もいます。

  • 規則的なトイレ習慣(朝食後など)

2) 薬物療法(代表例)

  • 浸透圧性(便に水分を引き付ける):酸化マグネシウム(カマグ) ほか

  • 腸からの水分の分泌促進:ルビプロストン(アミティーザ),リナクロチド(リンゼス, 食前服薬)。

  • 胆汁酸トランスポーター(IBAT)阻害薬:水分分泌と,腸を動かす作用.エロビキシバット(グーフィス, 食前服薬)。

  • 刺激性(センナ等):頓用中心に位置づけ。

  • オピオイド誘発便秘:必要に応じてメチルナルトレキソン/ナルデメジン等を検討。

最終監修:2025年10月20日(井星 陽一郎 医師)

参考資料

  • JSGE 慢性便秘症ガイドライン 2023

  • AGA/ACG 慢性便秘治療ガイドライン 2023

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