ヘリコバクター・ピロリ菌の意義とその検査,治療について.
ピロリ菌とは
ピロリ菌(Helicobacter pylori)は、胃がんや胃潰瘍など,さまざまな消化器系の問題を引き起こす細菌の一種で,胃の中に住んでいます。このピロリ菌は、通常幼少期に、唾液、嘔吐物や便との接触、汚染された食品や水を介し伝播します。家族内感染はピロリ菌の主たる経路と考えられます.
ピロリ菌により引き起こされる病気があり,以下の状態では,ピロリ菌の除菌による治療や予防が勧められます.
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ピロリ感染胃炎(萎縮性胃炎・鳥肌胃炎など)
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胃潰瘍・十二指腸潰瘍
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早期胃がんの内視鏡治療後
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胃MALTリンパ腫
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胃ポリープ(過形成性ポリープ)
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特発性血小板減少性紫斑病
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鉄欠乏性貧血
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機能性ディスペプシア


ピロリ菌の最大の問題は、胃がんの原因であること

胃がんは,約99%がピロリ菌の感染者,または過去にピロリ菌に感染していた方に発生します.
胃がんは 2019年に全国で 124,319例(男性85,325例、女性38,994例)が診断されています.
あなたがピロリ菌に感染している可能性は?
年代別の感染率
日本では衛生環境などの改善により、生年が新しくなるほどピロリ菌が急減しています。複数の研究を合わせた結果から、下のように推計されています。
これは、「除菌をしていない人」と、「除菌を既にしている人」を合わせた数字です.

出典:日本ヘリコバクター学会「H. pylori感染の診断と治療ガイドライン2024改訂版
総論1「日本のH. pylori感染率は出生時期で 決まる」
全ての人は3タイプの「ピロリ菌の状態」のいずれかに相当します
ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の状態は,大きく分けて次の3つに分かれます。
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未感染(これまで一度も感染していない)
生まれてから今までピロリ菌に感染していない状態で,胃がん・胃潰瘍のリスクが最も低いグループです。若い世代では,この未感染タイプが大多数を占めます。 -
既感染(過去に感染していたが,今は除菌されている)
以前はピロリ菌がいたものの,除菌治療や,別の理由で(副鼻腔炎など)抗菌薬治療をうけた影響で除菌され,今は菌がいない状態です。胃がんリスクは下がりますがゼロにはならず,日本では40代以上ではこのタイプが増えています。 -
現感染(今も胃の中にピロリ菌がいる)
現在も胃の中にピロリ菌がいる状態で,胃潰瘍・十二指腸潰瘍・慢性胃炎(次のセクションにできてきます)・胃がんなどの原因となります。若い世代では減っていますが、特に50代以降では今も一定数みられます。
まずは「自分がどのタイプか」を知ることが大切です
未感染・既感染(除菌済み)・現感染のどのタイプかによって,胃がんリスクや必要な定期検査が変わります。血液・尿・便・呼気検査や内視鏡検査などを組み合わせることで,自分がどのタイプかを確認できます。
ピロリ菌の検査方法
ピロリ菌の検査には,数種類の検査方法があります.それぞれ,長所,短所があり,個々のケースに応じた検査方法をご提案します.
健康保険を利用したピロリ菌の検査は,胃カメラで感染が疑われる場合に実施が認められています.
血液または尿の抗体検査
血液や尿中にピロリ菌に対する抗体が存在する かを調べる
尿素呼気試験 (UBT)
検査薬(13C尿素を含む)を摂取し、その後の呼気中に特定の二酸化炭素が増加するかを測定してピロリ菌の有無を 判定
鏡検法
胃粘膜組織を特定の染色方法で染め、顕微鏡で直接ピロリ菌を観察.
便中抗原検査
便サンプルからピロリ菌の抗原を検出する
迅速ウレアーゼ試験
胃粘膜組織を尿素とpH指示薬が混ざった試薬に入れ、ピロリ菌による尿素分解の結果としてpHが変化するかを観察.
培養法
胃粘膜から採取したピロリ菌を培養し、抗生剤の感受性などを調べる.
*胃カメラ(内視鏡検査)中に実施する検査です.
ピロリ菌の治療(除菌)
1次除菌治療
胃薬(酸抑制薬)と、2種類の抗生物質(アモキシシリン,クラリスロマイシン)を合わせた3種類の薬剤を1週間服用します。
制酸剤で胃の酸性度を下げることで、抗生物質の効果を高めピロリ菌の除去を助けます。近年、クラリスロマイシンに対する耐性菌のため、一次除菌の成功率は約70~80%となっていますが、多くの場合でピロリ菌を除去することができます。
注意:ペニシリン(アモキシシリン)アレルギーがある方は必ずお申し出ください.
2次除菌治療
1次除菌に失敗、つまりピロリ菌が残った場合は、2次除菌治療に移行します。この段階では、クラリスロマイシンをメトロニダゾールに置き換え,3種類の薬剤を同じく1週間服用します。2次除菌治療は90%以上の高い成功率を誇り、ほとんどの場合ピロリ菌を根絶することが可能です。
除菌治療の副作用
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軟便・下痢:抗菌薬による腸内最近のバランス変化が原因で、10-30%に見られます。
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味覚異常・舌炎・口内炎:食べ物の味がおかしく感じる、にが味や金属味がするなど、5-15%の方に発生します。
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皮疹・アレルギー反応:発疹やかゆみなど、2-5%の方に見られ、アレルギー反応の一形態です。
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その他の副作用:腹痛、ガスの増加、便秘、頭痛、肝機能障害、めまいなどが低頻度で報告されています。
対処法
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発熱、腹痛を伴う下痢、下血、発疹、かゆみがあらわれた場合は,直ちに薬の服用を中止し医師に連絡してください。
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軟便、軽い下痢、味覚異常の場合:7日間の治療を継続してください。ただし、症状が悪化する場合は医師に相談しましょう。
注意点
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強い副作用は2-5%と少数ですが、出現した場合は治療中止となります。
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高齢者でも副作用の頻度は10%程度と報告されており、大きな持病がない限り除菌治療を避ける必要はありません。
3次除菌
3次除菌治療は,1次および2次の治療でピロリ菌を除去できなかった方,または薬剤アレルギー等で標準的な除菌治療が適用できない方を対象にします.
以下の3種類の薬剤を1日2回,1週間にわたって内服します.
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ボノプラザン (40mg): 強力に胃酸の分泌を抑制する薬剤です.
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アモキシシリン (1500mg) もしくは メトロニダゾール (500mg): 抗生物質です.
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シタフロキサシン (200mg): 抗生物質の一種です.
この治療で,約70-90%の方が除菌に成功します.
治療費用:3次除菌治療は保険診療の対象外であり、診察料、検査料、処方箋代、薬代を含めて全額自己負担となります.治療にはおおよそ25,000円程度が必要です.
1次,2次治療と同じく,除菌治療に用いる薬剤には副作用のリスクが伴います.
最終監修:2026年03月5日(井星 陽一郎 医師)








