胃カメラの口コミやレビューで選んでよい? 星の数と医療の質は一致するとは限りません
- 井星陽一郎

- 2月28日
- 読了時間: 8分
更新日:1 日前
インターネットで飲食店やホテルを探すとき、星の数や口コミを参考にする方は多いと思います。スマートフォンが生活の中心になった今、その感覚が医療機関選びにも自然に広がるのは、ごく自然なことです。
「胃カメラを受けたいけれど、どこで受ければよいだろう」そう考えたときに、口コミやレビューを見て医療機関を探す方は少なくありません。
実際、受付対応、院内の雰囲気、待ち時間、説明のわかりやすさなど、口コミから参考になることは確かにあります。その意味で、レビューをまったく無意味だと言うつもりはありません。
ただ、ここで一つお伝えしたいことがあります。それは、星の数やレビュー件数と、医療の質が必ずしもそのまま一致するとは限らないということです。
とくに胃カメラのような専門性の高い分野では、その傾向がよりはっきりします。なぜなら、患者さんがその場で実感しやすいことと、医療として本当に重要なことが、必ずしも同じではない場面があるからです。
静かなまま終わる医療は、レビューに残りにくいことがあります
たとえば、ある医療機関で長年にわたり多くの内視鏡検査が行われていても、レビュー件数自体はごく少ない、ということは珍しくありません。
例としてに累計2万人の胃内視鏡を受けた患者さんのうち(Y市Nクリニック)、レビューを書いた方が10人(そのクリニックでは10人未満)なら、投稿率は0.05%です。言い換えれば、99.95%の患者さんは、何も書き残していないことになります。
インターネットの感覚に慣れていると、「レビューが少ないのは人気がないのだろうか」と感じるかもしれません。しかし、医療の現場を長く見ていると、必ずしもそうではないようです。
むしろ、大きな不満もなく、必要な診療が淡々と行われ、患者さんが安心して帰っていく医療機関ほど、レビュー欄が静かなことは少なくありません。
医療における満足は、「マイナスをゼロに戻すこと」に近い
その理由の一つは、医療での満足のあり方が、一般的なサービス業とは少し異なるからです。
レストランやホテルでは、「想像以上によかった」「誰かに勧めたい」「感動した」という気持ちが口コミにつながりやすいものです。つまり、日常を上回る“プラスの体験”がレビューの原動力になります。
一方、医療で多くの方が望むのは、派手な感動ではありません。不安が解消されること、必要な検査が無事に終わること、大きな異常がないと確認できること、あるいは問題があっても適切に次の道筋がつくことです。
言い換えれば、医療における満足とは、病気や不安というマイナスを、できるだけ穏やかにゼロへ戻すことに近いのです。
診察や検査が終わり、「大きな異常はありませんでした」と説明を受けて安心した方が、そのまま静かに日常へ戻っていく。あるいは、病変が見つかったとしても、必要な説明を受け、次に進むべき道が明確になって安心する。こうした経験は、医療においてとても大切な価値があります。
しかし、その価値は、必ずしも派手なレビューとして表に出るとは限りません。多くの方は、ほっとしてそのまま日常へ戻り、あえて言葉を残さないことも少なくないからです。
患者さんが感じやすい「楽さ」と、内視鏡の本当の質は同じではありません
とくに内視鏡のような専門性の高い分野では、患者さんがその場で実感しやすいことと、医療として本当に重要なことが、必ずしも一致しません。この点は、飲食店やホテルの口コミと、医療の口コミが大きく違うところでもあります。
専門性が高いからこそ、「見えない部分」が多い
患者さんが評価しやすいことの多くは、たとえば次のような点です。
検査が楽だったかどうか
受付や看護師、医師の対応が丁寧だったか
説明がわかりやすく、安心感が得られたか
これらはどれも大切で、実際にレビューでもよく言及されるポイントです。医療機関を選ぶうえで、こうした視点に意味がないわけではありません。
一方で、患者さんからは直接評価しにくい、しかし内視鏡医にとっては決定的に重要な点があります。たとえば、どれだけ丁寧に粘膜を観察していたか、小さな病変や見落としやすい部位をどれだけ意識して確認していたか、「大丈夫です」という判断がガイドラインや現在の知見に照らして妥当だったか、組織検査(生検)を行う・行わない判断が適切だったか、次回の内視鏡までの間隔の提案がリスクに応じて妥当だったか、といったことです。
こうした点は、検査を受けている患者さんからはどうしても見えにくい領域です。検査が楽だったからといって、必ずしも観察が十分で診断精度も高かったとは限りませんし、逆に少しつらく感じても、非常に丁寧で質の高い観察が行われていることもあります。
母集団の多くは、「何も起きていない」ことが少なくありません
胃カメラを受ける方の多くは、実際には大きな異常がなく、胃がんが見つかる方は全体から見ればごく一部です。つまり、多くの検査は「大きな異常はありませんでした」という結果で終わります。
このこと自体は悪いことではなく、むしろ必要な確認ができて安心につながるという意味で、とても大切なことです。ただ一方で、ここには内視鏡の質を患者さんが見分けにくくする理由もあります。
極端な言い方をすれば、異常のない方が大多数である以上、患者さん側から見ると、多くの検査が同じように「問題ありませんでした」で終わって見えます。
しかし本当に重要なのは、そのなかで少数派である病変のある方を、どれだけ確実に拾えているか、そしてそのために日々どれだけ質の高い観察と判断が行われているか、という点です。
これは医療として非常に重要ですが、患者さん自身がレビューで直接評価することは簡単ではありません。
「眠って楽に」は利点でもあり、盲点にもなりえます
鎮静を使って、眠っている間に楽に検査を受けられることは、多くの方にとって大きなメリットです。苦痛が少なく、検査への不安が和らぐことには、確かな価値があります。
ただ、ぐっすり眠っている間のことは患者さんには分かりません。そのため、「楽だった」「よく眠れた」という満足感が、そのまま「細かいところまで丁寧に、質高く観察してもらえた」という評価に結びつきやすい面があります。
もちろん、楽でありながら質の高い内視鏡は十分にありえます。しかし、楽だったことと観察の質や診断の妥当性は、同じ意味ではありません。
内視鏡の口コミでは、この二つがどうしても一緒に受け取られやすくなります。つまり、「楽だった」「対応がよかった」という満足はレビューに反映されやすい一方で、その裏にある観察の質や診断の妥当性までは、レビューからは読み取りにくいのです。
このギャップがあるからこそ、内視鏡を選ぶときには、星の数だけでなく、誰が検査を行うのか、どのような専門性を持っているのか、必要時に生検やその後の対応まで見通しているのかといった点も、あわせて見ていただきたいと思います。
口コミは参考になります。ただ、それだけで全体は見えません
もちろん、レビューそのものを否定したいわけではありません。
受付対応、院内の雰囲気、待ち時間、説明のわかりやすさなど、患者さんにとって参考になる情報は確かにあります。その意味で、口コミには価値があります。
ただし、レビューの多さや目立ち方は、診療の質だけで決まるわけではありません。そこには、レビューを書きたくなる出来事があったかどうかだけでなく、レビューを書きやすい導線があるか、投稿を促す仕組みがあるか、といった要素も影響します。
そのため、短期間に高評価レビューが目立って増えているからといって、それだけで医療の中身まで高く評価されたと考えるのは、少し慎重であった方がよいと思います。反対に、レビューが少ないからといって、医療の質が低いとも言えません。
検索画面に並ぶ星の数は、確かに分かりやすい指標です。しかし、分かりやすいことと、本質を十分に表していることは同じではありません。

胃カメラを受ける医療機関を選ぶときに、口コミ以外で見てほしいこと
では、胃カメラを受ける医療機関を選ぶとき、口コミ以外に何を見ればよいのでしょうか。
私が大切だと思うのは、たとえば次のような点です。
誰が検査を行うのか
どれほど消化器内視鏡の専門性があるか
鎮静や経鼻など、検査方法の選択肢があるか
必要時に生検やその後の対応まで見通しているか
洗浄・感染対策がきちんとしているか
結果説明がわかりやすく、次の方針まで丁寧に示されるか
こうした点は、レビューだけでは十分に見えないことがあります。だからこそ、口コミは一つの参考情報として活用しつつ、その医療機関がどのような姿勢で診療を行い、どのような専門性を大切にしているかにも目を向けていただきたいと思います。
おわりに
本当に良い医療は、いつも派手に語られるとは限りません。何事もなく検査が終わり、患者さんが安心して日常へ戻っていく。あるいは、問題が見つかっても、適切な説明と次の一歩が示される。そうした静かな積み重ねの中にこそ、医療の本質があると私は考えています。
口コミや星の数は、たしかに参考になります。ただ、それだけで決めてしまうのではなく、ご自身が何を大切にして医療機関を選びたいかも、あわせて考えてみてください。
参考文献
Campbell EG, et al. Eight Questions About Physician-Rating Websites. J Gen Intern Med. 2013.
Emmert M, et al. On Patient Safety: Are Online Reviews a Reliable Assessment of Healthcare? 2018.
Hu N, et al. Vocal minority and silent majority: how do online ratings reflect population perceptions of quality. MISQ. 2015.
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